昨日、準・メルクル指揮フランス国立リヨン管弦楽団のサントリーホール公演に、ソリストとしてピアニストのジャン・フレデリックが出演しました。
 ジャン・フレデリックは、ロン=ティボー国際コンクールで入賞し、既に欧米のトップ・オーケストラの数々と共演している新星です。そして、梶本音楽事務所が、ホロヴィッツやポリーニに続く「未来の巨匠」として、今最も力を入れて世界にご紹介しているピアニストです。
 フランスのオーケストラにフランス人の指揮者、そして、フランスで今、最も将来を嘱望され、世界から注目を浴びている若手ピアニスト、ジャン・フレデリックが、フランスを代表する作曲家の1人、ラヴェルを演奏するという、この上ない組み合わせに、心ときめかせて会場に向かわれたお客様も多いのではないでしょうか?

 いつもはツアーマネジャーの感想やこぼれ話を織り交ぜたレポートが多いのですが、今回はワタクシ、公演部宣伝担当が、客席からジャン・フレデリックの演奏をお伝えいたします。

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 さて、実際の演奏ですが……。
 まず感じたのは、繊細なタッチと、くっきりとした音質。そして、ピアノから音を発するというよりは、音が会場を包み込むような印象がありました。磨き抜かれた完璧なテクニックで、あらゆる表現を難なく自在に弾き分け、色彩豊かなラヴェルの音楽で、次々と情景が描き出されました。明るく華やかなばかりでなく、陰りのある色合いも織り交ぜられ、聴衆を引き込みます。「もっともっと彼の音を聴きたい!」と、思わず身を乗り出してしまうような不思議な感覚を覚えました

 1、2楽章は、オーケストラの音を大切にし、その上にピアノの音を乗せ、時には溶け合わせたりと、全体の調和を常に考えながら曲を弾き進めるピアニストだと思いました。3楽章では打って変わって、オーケストラを引っ張り、音楽を押し進めていく、若さも見せました。
 アンコールのバッハは、まさに、大聖堂でのオルガンの響き(サンプルCDにも入ってます!)。ホールの空気がバッハの音で満たされていくように感じました。

 20歳そこそこなのに、こんな深い演奏をするなんて、タダモノじゃないです。絶対にすごいです。
 でも、ステージでの振舞いは、まだ慣れていないらしくちょっとぎこちない面もあったりして、微笑ましいかも……。

 ご入場の際にお配りしたサンプルCDはお聴きになりましたか? ラヴェル、ブラームス、J. S. バッハの3曲が入っており、彼の魅力が凝縮されています。台紙となっているピアノの形をしたカードもかわいいですよ。
 11/17(土)のリサイタルでも、ご希望の方には差し上げますので、ぜひご来場ください。

 将来、必ずや巨匠となるであろう新人ピアニストの「今」を聴いておきませんか?

[11/17 サントリーホール公演情報はこちら]
2007-11-07 16:28 この記事だけ表示
 本日、サントリーホールでパリ管弦楽団と共演するラン・ランが、先ほど日本に到着しました。
 ということは、ローマから来日し、すぐにリハーサルをして今夜は本番exclamation&question す、すごい。やはり、若さでしょうか。
 ちまたでは「ピアノ王子」なんて呼ばれているようですが、ちょっとほっぺの辺りが……思わずつついてみたくなる感じになってます(携帯の上に乗ってます!カワイイ揺れるハート)。

 親孝行で知られるラン・ラン。来日早々、お父さんに電話をしています。「無事着いたよ〜」なんて話しているのでしょうか。

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 かつては、若々しいダイナミックさ、目を見張るようなテクニックが彼のトレードマークでしたが、近年は、作品の奥深さを感じさせる叙情にあふれた演奏で高く評価されています。
 フランスのエスプリあふれるパリ管弦楽団との共演に、期待が高まります。

 本日の公演は、若干枚数ですが当日券をご用意しております。
 3時までならネット&お電話で当日引き換えの予約もできます。
[11/7 サントリーホール公演情報はこちら]
2007-11-07 13:20 この記事だけ表示
 井上道義の旗振りのもと、日比谷公会堂で8公演にわたり、ショスタコーヴィチの交響曲全15曲を一気に取り上げる前代未聞のプロジェクトがいよいよスタートです!
 昨日からリハーサルが始まり、このプロジェクトのオフィシャルカメラマンである三浦興一氏がさっそく写真を送ってくださいました。
 日比谷公会堂の音響とショスタコーヴィチの音楽がこんなにも合うなんて……と驚きのスタッフからのレポートです。

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 先日、ロシアでの定期公演を終えたばかりのサンクトペテルブルク交響楽団が、井上道義の帰国とともに来日、10月31日午後よりリハーサルを開始しました。
 久しぶりに日比谷公会堂のステージ一杯にオーケストラが並び、ショスタコーヴィチの迫力ある音楽が会場の隅々まであふれました。

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帰国したばかりですが疲れも見せず、プロジェクト開始に向けて力が入ります。
 
 立ち会ったスタッフの中には「新鮮な響きだ!」と驚嘆する者も。サントリーホールや東京オペラシティといった近代的なホールとは一味違った響きが、逆に「新鮮」に聴こえたようです。

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「昭和ロマン」の雰囲気を感じませんか?

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ホールで行われた記者発表の様子。こちらもなかなか風格ある内装です。

 プロジェクトは11月3日に交響曲第1、2、3番で幕を開けます。
「日比谷公会堂かぁ、懐かしいなぁ」(今も健在です)
「日比谷公会堂ってドコ?ナニ?」(日比谷公園の一角にある音楽の殿堂です)
「ショスタコーヴィチってムズカシイ……」(そんなことありません!とにかく一度聴いてみてください)
「ショスタコーヴィチ、大好き!」(さすが!)
という皆様、ご家族、友人、誘い合って日比谷にお集まりください! ショスタコーヴィチの音楽は多くの仲間と分かち合ってお聴きいただいてこそ、その醍醐味が味わえます。
 3,000円(学生1,500円)というチケット料金も前代未聞のプロジェクトです!

[10/3〜12/9 日比谷公会堂公演情報はこちら]
2007-11-01 20:05 この記事だけ表示
 ザ・ベース・ギャングファンの皆様、お待たせいたしました!
 来ましたよぉ〜、ヤツラが。今回の日本ツアー用のレパートリーを引っさげて来日しました飛行機
 大流行の「千の風になって」も入ってます。あの朗々たるテノールがまた聞けるかな?
 あと、気になったのは「20世紀フォックスのテーマ」。なんじゃこりゃ? 映画が始まる前の、あのファンファーレをコントラバスでやるってこと? 想像が付きませんが……わーい(嬉しい顔)

 当日は、お客様の反応を見ながらこの中より選曲します。
 どうぞ、盛り上げに盛り上げて、1曲でも多く演奏させてやってください。ヤツラ、調子に乗ったらいくらでも演奏しますから、お楽しみにexclamation×2

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ヤツラの楽器ケース。派手ですぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)

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The Bass Gang 2007 レパートリー・リスト

―― DVD “The Chianti Concert” より ――

黒猫白猫 (カライリチ&アラリカ&スパラヴェロ)
真夜中のキス (G.クレーマー)
モーツァルト・オン・ベース2006 (W.A.モーツァルト&A.ピーギ)
ニューヨーク・ニューヨーク (J.カンダー)
バードランド (J.ザビヌル = ウェザーリポート)
ムーン・フラワー (T.コスター)
チュニジアの夜 (D.ガレスピー)
赤とんぼ (山田耕筰)
コントラバヘアンド4(A.ピアソラ)
バッハの…青い影(J.S.バッハ&P.ハルム)
冷たい女 (デメトリウス = E.プレスリー)
5×4メドレー
テイク・ファイヴ(D.ブルーベック)
交響曲第6番「悲愴」〜第2楽章(P.I.チャイコフスキー)
エヴリシング・イズ・オールライト(A.L=ウェッバー)

アメリカ人になりたいの (R.カロゾーネ)
Tu ‘vo fa l’americano (R.Carosone)
ラテン・ベース・メドレー
Latin Basses Medley
エル・クンバンチェロ(R.ヘルナンデス)
El Cumbanchero (R.Hernandez)
地方の祭り(M.モレイラ)
Festa do Interior (M.Moreira)
ブラジルの水彩画(A.バホーゾ)
Aquarela do Brasil (A.Barroso)
南京豆売り(M.シモンズ)
Peanut Vendor (M.Simons)
コーヒー・ルンバ(J.マンゾー)
Moliendo Café (J.Manzo)
ティコ・ティコ (Z.d.アブレウ)
Tico Tico (Z.d.Abreu)
テキーラ (C.レッド)
Tequila (Chigger Redd)
マシュ・ケ・ナダ(J.B.ジョー&S.メンデス)
Mas Que Nada (J.Ben Jor & S.Mendez)
ビリンバウ (V.d.モライス&B.パウエル)
Berimbau (V.d.Morares & B. Powel)
ブラーヴァ!(B.カンフォラ)
Brava! (B.Canfora)
アイ・ガット・ユー (T.ライト&J.ブラウン)
I got You (T.Wright & J.Brown)
「ピンク・パンサー」のテーマ(H.マンシーニ)
Pink Panther Theme (H.Mancini)


―― 新曲&定番レパートリー!――
20世紀フォックスのテーマ(A.ニューマン)
スターズ・イントロ+スター・ウォーズ(J.ウィリアムズ)
ロックンロール・ナンバー9 (L.v.ベートーヴェン)
メドレー2007
千の風になって (新井満)
ケ・サラ (N.d.バリ)
「ピーター・ガン」のテーマ (H.マンシーニ)
恋する楽士 (ナポリ民謡)
浜辺の歌 (成田為三)
上を向いて歩こう (中村八大)
マツケン・サンバ (宮川彬良)
その男、ゾルバ (M.テオドラキス)
ロング・ビークル(カライリチ&アラリカ&スパラヴェロ)
スウィンギン・オン・運命(L.V.ベートーヴェン/T.グレーヴズ)
スラップ・ザット・ベース(G.ガーシュウイン)
「カルメン」〜闘牛士の歌(G.ビゼー)
リゴレット・カルテット(G.ヴェルディ)

マイ・シャローナ(D.フィーガー&B.アヴェッレ = ザ・ナック)
ゴースト・バスターズ(R.パーカーJr.)
サマー・ストールン・タイム(G.ガーシュウイン&O.ネルソン)
セレサンバ(P.チャイコフスキー&C.サンタナ)
オー・ソレ・ミオ (E.d.カプア)
操り人形の葬送行進曲(C.グノー)
ベサメ・ムーチョ (C.ヴェラスケス)
ヴォルガ・ボートマン(G.ミラー)

[11/10フィリアホール公演情報はこちら]メンバーのアメリゴからのメッセージビデオも見られます
2007-10-31 19:29 この記事だけ表示
 ドイツの正統派弦楽四重奏団、ライプツィヒ弦楽四重奏団が、台風と共に(?)待望の来日です!!
 若手カルテット界を牽引する存在の弦楽四重奏団のひとつとして注目されている彼ら。リハーサルでさっそく感動してしまった弊社マネジャーからのレポートです。

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 台風が上陸したその日に、日本に降り立ったライプツィヒ弦楽四重奏団。時差にも負けずリハーサルを行いました(写真参照)。

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 リハーサルの最初に合わせたショーソンは、まずピアノが奏でられ、それにチェロとヴィオラが加わっていくのですが、最初のたった3音で、胸が締め付けられるほど感動しました。
 車でいうならば、走り出す前のエンジン音だけで、レース全部が見えちゃう、みたいな、そんな感動を最初から得ました!初めて彼らの音楽を聴いたのですが、正直こんなに凄いとは……。

 翌日には神奈川県民ホールでコンサート。
 本番は、リハーサル通りではつまらない、とばかりにソリストの戸田弥生さんとの掛け合いを楽しんでいました。これはどうだ!と音楽がどんどん広がっていき、お客さんの心をぐいぐいと掴んでいました。演奏が終わるとともに、ブラボーの嵐!
 演奏を聴き終わったお客様にも目に涙を浮かべている方が……。

 ベートーヴェンの「セリオーソ」も、重厚でエネルギッシュ。
 ヒンデミットとレスピーギで共演したメゾ・ソプラノの寺谷千枝子も、終演後思わず楽屋で飛び跳ねてしまうほど興奮。音楽の喜びを多くの人と分かち合えた夜でした。

 メンバーの年齢的にも今一番油がのっているカルテットという印象が強く、コンサートのクォリティはかなり高いものだったと思います。


 コンサートの翌日は神奈川県民ホールのギャラリーで「沈黙から」塩田千春展&アート・コンプレックス2007」にも登場し、アーティスト、塩田千春氏の作品の中で、ストラヴィンスキー、ルリエ、シューベルト、プッチーニを演奏。
 「沈黙から」のテーマに沿い、ギャラリーに独特の世界観を作り上げました。
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 さり気なく作品の中で4人のショット(プロフィール写真に使うつもり?とばかりに真面目に)も撮っていました。
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 しかも、「触ってはいけません」と表示の付いている作品の椅子に、普通に座って撮ってました。焦って作家の塩田氏を振り返ると「あ、いいですよー」と許してくださいました。

 同じドイツ・ベルリン在住の塩田さんとカルテットは打ち解け、前日はチャイナタウンの中華料理屋で作曲家・ピアニストの一柳慧さんも交えてビールを飲み交わしました。
 気さくな人柄で多くの人とすぐに親しくなるのは、このカルテットの特徴で、真面目ですがユーモアのある好青年カルテットです。

[11/4 トッパンホール公演情報はこちら]
2007-10-29 17:20 この記事だけ表示
 井上道義のショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクトの一環として、サンクトペテルブルク・フィルハーモニーホール公演が先週 10/27に行われ、大成功を収めました。
 井上道義とサンクトペテルブルク響とのコンビは、日本公演に向けて着々と調子を上げているようです。写真を交えたレポートでその模様をお送りします。

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 レポート:川田真梨子(サンクトペテルブルク在住)

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 当日のプログラムは、前半ベートーヴェン作曲“エグモント”とピアノ・コンチェルト第3番(ソリスト:ミハイル・ぺトゥホフ)、後半ショスタコーヴィチ作曲交響曲第6番の全3曲。
 1曲目ではその力強さで満員のお客さんの心を惹きつけ、2曲目ではうって変わってピアノに寄り添うように抑揚のある表現力豊かな演奏。趣の違う2曲を素晴らしく演奏し分け、否が応にも後半への期待は高まります。休憩が明け、いよいよショスタコーヴィチの交響曲第6番。井上さんのショスタコーヴィチへの熱い思いが存分に伝わってくる演奏でした。

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 ショスタコーヴィチに対して一般的に持たれているマイナスのイメージが、この曲に関してはあまり感じられませんでした。だからこそ逆に、この曲の作曲背景、全交響曲の中でのこの第6番の存在意義、といったものへの探究心がかきたてられます。特にショスタコーヴィチのような作曲家の場合、1つの作品だけを取り出して聴いても、本当の意味で理解はできません。11月の全曲演奏プロジェクトの意義はそこにあるのだと痛感しました。

 井上道義は終始親密なアイコンタクトでオーケストラとのコミュニケーションを図り、全身でご自身の意図を表現しオーケストラを掌握していました。
 この曲はサンクトペテルブルクでもあまり演奏機会がなく馴染みの薄い曲だといわれ、構成も一般的な4楽章構成ではなく3楽章構成。井上ご本人も「いびつな交響曲」と説明するほどのちょっと不思議な曲。にもかかわらず、曲が終わった後、「やってやったぞ!」と言わんばかりに堂々と笑顔で挨拶をする井上に対して、会場中からは大きな拍手が送られました。「ショスタコーヴィチの曲はすごくキャッチーなんです」という井上の言葉が頭をよぎります。間違いなく今日の演奏は、満員のお客様の心を掴んでいました。
 また、カーテンコール時に、パート毎に立ち上がるよう促し自ら拍手を送ったり、コンサートマスターと抱き合って健闘を称え合う姿からは、井上さんとオーケストラの温かな信頼関係も感じられました。日本での彼らとの8つの交響曲演奏に向けて、着実に準備は進んでいるようです。

20071027 フィルハーモニーホール__006.jpgサインに応える井上道義

20071027 フィルハーモニーホール__007.jpg公演後、満足げに笑顔を見せる井上道義

[10/3〜12/9 日比谷公会堂] ※サンクトペテルブルク響とは11/3,4,10,11に共演します。
2007-10-29 16:17 この記事だけ表示
 先日、サンクトペテルブルクにて、「ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト2007」についての記者会見が行なわれました。会場は、フィルハーモニーホールが入っている同じ建物内のレストラン「貴族の集会」。ホール向かいのホテル・ヨーロッパ系列のレストランで、その名の通り、高級感漂う店でした。
 出席者はオーケストラ、フィルハーモニーホール、フィルハーモニーの図書館などからの音楽関係者のほか、プレス関係者が10人。また、記者会見の後では、ロシア・ラジオからのインタビューにも応えました。
 ここでも井上道義は、ショスタコーヴィチについて熱く熱く語っていました。その様子を皆様にもご紹介いたします。

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「ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト2007」記者会見
 (2007年10月22日 於:Assemble of Nobles)
         レポート: 川田真梨子

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 ショスタコーヴィチをこんなにも好きになったことには、とても多くの理由があります。長くなりますが少し我慢して聞いてください。

 初めてショスタコーヴィチを振ったのは40年前、学生時代の頃です。交響曲第1番を学生オーケストラで演奏しました。その頃日本でショスタコーヴィチはほとんど知られていませんでした。
 今回のプロジェクトで公演をする日比谷公会堂は、彼の7つの交響曲が日本で初演された場所です。私もそこで中学生の頃に交響曲5番を聴きました。でも大嫌いでした。それはおそらく当時の日本のオーケストラ・指揮者がまだあまり上手ではなかったからだと思います(もちろん今は日本のオーケストラのレベルは高いものになっています。おそらく70年代80年代頃からは)。

 指揮者になった後、1975年、このフィルハーモニーホールにやってきて、テミルカーノフのオーケストラを指揮しました。ベルリオーズの幻想交響曲などです。まだ僕も若く髪もたくさんあり、マリス・ヤンソンスがまだテミルカーノフのアシスタント・コンダクターをしていた頃でした。彼は客席に座り、きっと嫉妬していたと思います。もちろん今はそういう仲ではないですが。
 その時のツアーでは、ペテルブルク・リヴォフ・そしてヴィリニュスのオーケストラで指揮をしましたが、それはとても刺激的なことでした。そしてその後、長い間ロシアには来ていませんでした。

<日本・ロシアでのショスタコーヴィチの認知について>
 日本ではショスタコーヴィチはまだまだ知られていません。僕はマーラーの交響曲をチクルスで演奏したことがあります。その時は、たくさんのお客さんが来ました。公演は毎日録音され、毎日指揮をしました。しかしショスタコーヴィチとなると話は別です。彼の曲には残念ながらマイナスのイメージがたくさんあります。「長い」「暗い」「難しい」……。おそらくロシアでも、音楽にあまり詳しくない人の間では、同じイメージがやはりあると思います。

 昨年の10月、ベルヌージュとキスロバーツに行きました。はるばる夜行列車に乗って。そして現地のオーケストラとショスタコーヴィチを演奏しました。まだ彼らはショスタコーヴィチを、交響曲5番9番くらいしか知りません。僕は、ペテルブルクとモスクワ以外で彼の作品がどう感じられているのか興味がありました。そしてその結果は日本と同じものでした。
 しかしここペテルブルクのオーケストラでさえも1〜4番はあまり演奏されていません。でも僕は全部の交響曲がものすごくおもしろいと思います。僕はもし彼が5番を作曲する前、つまり彼を有名にした5番を書く前に亡くなっていたとしても、彼は偉大な作曲家だったと思っています。4番が書かれた後、長い間演奏されていなかったことは、色々な意味で興味深いことです。これは必ずしも政治的な理由だけではないと確信しています。音楽的にすごくアヴァンギャルドで、演奏家も指揮者も理解できなかったんだと思う。それに対して反論があれば、僕は知りたいです。

<ショスタコーヴィチという作曲家について>
 彼については音楽学者や解説者が色々書きすぎていると思う。僕は、彼の曲はすごくわかりやすく、人の胸をつかみやすいと思っています。すごくキャッチーなんです。そして都会的。そして現代的。だから、ソビエト連邦とショスタコーヴィチは分けて考えて欲しいんです。どんな作曲家でも、自身が生きたその環境に合わせなければならないんです。

 日本では今でも作曲家が作曲だけで生きることはできません。映画やテレビの音楽を書き、そして学校で教えています。素晴らしい作曲家はSF映画の音楽を書きます。
 もちろん、スターリンの時代はとても厳しい時代だったと思いますが、そのことばかりでショスタコーヴィチのことが語られすぎています。

 現在音楽がエンターテインメントのなかに埋没してしまっている。でも、ショスタコーヴィチの作品は本当の芸術だと思う。

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<プロジェクトについて>
 僕がこのプロジェクトのことを考え始めたのは3年前です。というのも、その2年後にショスタコーヴィチ生誕100年祭があったからです。しかしその時は、お金の問題で実現しませんでした。
 今年11月3日〜12月9日にかけて、日比谷公会堂で約1ヶ月間8回の公演を行い、彼の全交響曲を演奏します。練習も日比谷公会堂でやります。演奏は日本のオーケストラで4回、サンクトペテルブルクのオーケストラで4回です。

<日比谷公会堂について>
 この日比谷公会堂を選んだのには訳があります。それは、このホールがショスタコーヴィチと少なからず関係があるからです。
 世界的にもこんなに短い期間で、彼の全交響曲を演奏したことはないと思いますが、どうしてもこのようにしたかったのは、僕が誇大妄想狂だからでしょう。何もない沼地にこの都市を築いたピョートル大帝のように。
 日比谷公会堂は1929年に建てられました。第2次世界大戦の頃、1945年1946年頃でさえも、ここでは1年に150回もの公演がありました。その周辺がアメリカ軍に占領され、東京の街が燃えてしまう前の日まで、ここではコンサートがあったんです。日比谷公会堂は燃えなかった。古くてぼろいホールではありますが。

 今、日本には素晴らしいホールがたくさんあります。サントリーホール、東京オペラシティ、オーチャードホール、東京芸術劇場、紀尾井ホール、NHKホール、新国立劇場……など。みんなとてもゴージャスで、新しいコンサートホールはこんな椅子です!(Hakuju Hallのリクライニングシートに座っている仕草)もちろんテミルカーノフやゲルギエフが行く時は、そのようないいホールでの演奏のみです。
 それに対して日比谷公会堂は席同士がくっついていて、バイロイトのように椅子は狭い。でもここは、1955年まで日本で唯一のコンサートホールでした。このホールを取り壊す計画もありましたが、取り壊すべきではありません。

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Q:このプロジェクトとオノ・ヨーコについて
A:彼女はインテリジェントな方なので、もちろんショスタコーヴィチの曲を知っていますが、最も重要なのは、彼女の曾おじいさんが日比谷公会堂の建設費用を全額寄贈したということです。

Q:交響曲第7番「レニングラード」が日本で初演されたのは?
A:確か1950年代です。1番は1932年に山田耕作が日本で初めて。そしてその後割りとすぐに5番から順番に11番まで。この日比谷公会堂で日本に紹介されました。
今、日本にはショスタコーヴィチの曲しか演奏しないアマチュア・オケすらあります。また、僕のウェブサイトには、ショスタコーヴィチの曲の日本での演奏履歴が紹介されています。

Q:ヴィリニュスに行った時、刺激的だったとおっしゃっていましたが?
A:この頃はまだ若く25歳でした。ソビエトは1つの国だと思っていた。でも地方によって人々も言葉も全然違いました。ロシア語の通訳さんも、ロシア語が通じなくて困っていたくらい。

Q:ショスタコーヴィチの交響曲の解釈について。
A:交響曲によってひとつひとつ違うので、ここで短く簡単にお話してしまう誤解を招く恐れがあります。今日は遠慮させてください。

Q:初めてこのホールでここのオーケストラを指揮した時の印象は?
A:あの時のことはよく覚えています。僕は若かったため、少し怖がっていました。あまりにも素晴らしいオーケストラですから。僕がお願い事をすると、1列目から後列へすさまじい勢いと迫力でそれが伝えられる。伝わるのがとても早いんです!今は少し違うのかな?

Q:日本でショスタコーヴィチの公演にお客さんは来ますか?
A:ここと同じだと思います。5・7・10・8番などはいつもたくさんのお客さんが来ます。2・3番は……(苦笑)。ただ、これらの曲はアヴァンギャルド的でとてもエネルギッシュ。多くの人がそのことをまだ十分理解していないように感じます。

Q:このようなプロジェクトに政府からの援助はありますか?
A:ありますよ。でも全体の10パーセントです。残りの部分に関しては、お手許の資料にある通りです。私はゲルギエフのように働きたいですよ(笑)。ガスプロムに援助を頼みたいくらい!
ただまじめな話、文化交流というものは不可欠です。例えば、ロシアにはヨーロッパの有名なオーケストラや日本のオーケストラはまだあまり来ていない。でもそろそろロシアも彼らを呼べる時に来ていると確信を持って言えます。絶対に可能なはずです。

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【ロシア・ラジオによるインタビュー】
Q:政治と音楽との関係についてどう考えますか?
A:僕自身作曲をします。人によって違うとは思いますが、音楽だけで政治は表現できません。例えば、「混沌」は音楽で表現できますけれども「“革命の”混沌」「“革命前の”混沌」「“革命後の”混沌」というところまでは表現できない。それは「朝焼け」と「夕焼け」がロシア語で表現できないのと同じ。ロシア語はこの2つの言葉は1つの言葉だから。

Q:政府からの注文というものも実際に存在しますが?
A:注文があっても、最終的に何を書くか、を決めるのは作曲家です。ショスタコーヴィチは彼のシンフォニーの中で、「社会主義の希望のある朝」を表現しているかもしれないけれども、それは同時にもしかしたら「社会主義の黄昏」かもしれない。そういう意味において、彼自身「革命の成功や喜び」ということを音楽だけで書くことはできなかったと思う。2番と3番で10月革命と5月のメーデーのことを書いているけれど、それはテキストがあるからであって、音楽(単独によって表現しているわけ)ではありません。

Q:このフェスティバルにどのくらいお客さんが来ると考えていますか?
A:その点を踏まえ、チケットの値段は安くしてあります。幸い僕は、今まで恵まれた指揮者人生を歩んできているけれども、正直なところ、このプロジェクトで大きな損をしてもいいと思っています。それは、政治と作曲家の関係がどうのということよりも、あの厳しい戦争の時代を生きた父と母の存在が関係していると思う。ショスタコーヴィチの作品は墓標であるといわれています。それは僕にも理解できることです。

Q:マルタ・アルゲリッチとオノ・ヨーコはどうして委員会のメンバーになったんですか?
A:アルゲリッチは、まず僕の知り合いだから。アルゲリッチは「ショスタコーヴィチの曲は、女性にもっと聴かれなければいけない」と言っています。オノ・ヨーコは彼女の曾おじいさんが日比谷公会堂を築く資金を全額寄附をしたし、彼女自身もそこで初めてクラシック音楽と出会っている。それが理由です。

Q:マーラーとショスタコーヴィチの曲は、難しさという点においてレベルは同じくらいだといえるかと思います。以前マーラーのプロジェクトをやった時の演奏の質と比べて、今回の見通しはいかがですか?
A:マーラーの時は、ひとつのオーケストラで1ヶ月に1曲ずつでした。しかし以前同じプロジェクトでショスタコーヴィチをロストロポーヴィチ&新日本フィルによる演奏でやった時は、2億円の赤字がでました。そのくらい、まだ日本にショスタコーヴィチのお客さんはいません。でもだからこそ僕はやるんです。曲はいいと思う。後期ロマン派の曲は、今の僕たちにとっては昔のもの。でもショスタコーヴィチは現在の作曲家なんですから!


 井上道義は、日本語に時々英語を交えながら、身振り手振りを使って語っていました。ロシア語の通訳さん(サンクトペテルブルク大学東洋学部の卒業生)に分かりやすいよう、言葉を言い換えたりする場面も多く、自分の思いを全て伝えきりたい、という熱意を感じました。

 このプロジェクトは、チケット料金が3,000円という低価格なだけでなく、公演日のほとんどが土日や祝日。この辺りにも、井上の「とにかく一度、聴いて欲しい!!」という強い思いが感じられます。
 日比谷公園の木々の色づきを見て美しい秋の雰囲気を感じながら、趣のある日比谷公会堂で初めてのショスタコーヴィチ体験……何てステキな休日の過ごし方でしょう!
 ぜひ一度、お出かけください!

どの曲目にすべきか迷ったらこちら(各曲についての井上のコメント集)。

チケットのお申込みはこちらから
[10/3〜12/9 日比谷公会堂]
2007-10-23 17:42 この記事だけ表示
 ツアー・レポートの前に、ライスターの公演を楽しみにされている皆様にちょっとお知らせです。

<写真展のお知らせカメラ
 紀尾井ホールとシンフォニーホールのロビーにて公演当日、70歳・演奏活動50周年を記念した「カール・ライスター写真展」を開催いたします。ライスター所蔵のコレクションからカラヤンをはじめとする往年の巨匠たちとのショット、またライスター自身が撮影した写真などがご覧いただけます。
 「モーストリー・クラシック」誌で好評連載中の"ライスター写真館"の写真も展示されます。
 公演と合わせてライスターの50余年にわたる軌跡をお楽しみください。

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10/19東京芸術劇場 10/20群馬音楽センター
 群馬交響楽団(高関健指揮)の東京公演と定期公演では西村朗のクラリネット協奏曲を演奏。ライスターに献呈さられた作品で本人がとても難しい!と何度も口にしていた30分近い単一楽章の大作です。クラリネットを演奏したことのない人間にも並大抵の技術では太刀打ちできないことはひしひしと伝わってきます。

 ライスターはゲネプロの後もステージに残って音の響きを確認、リードの具合など念入りに調整していました。難しいパッセージを本当に恐いくらい真剣な表情でさらっていました。これはその時の一コマ。
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 本番はブラボーも飛び出し大成功。本番が一番良かった!と本人も満足の表情を浮かべていました。でもその裏には、本番ギリギリまで、最善の演奏をするために努力する、真にプロフェッショナルな演奏家の姿があるのです。これほどの大家がと本当に頭の下がる思い、胸を打たれました。

 これまで日本ツアーでの6公演を終え、いよいよ終盤戦。24日に川口リリアホールでモーツァルトのクラリネット五重奏を、25日は紀尾井ホール、28日大阪ザ・シンフォニーホールでいよいよ70歳・演奏活動50周年記念コンサートが行われます。そして27日は久留米でリサイタル。皆さん是非聴きに来てくださいね!

[10/25 紀尾井ホール公演情報はこちら]
2007-10-22 14:23 この記事だけ表示
 
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